オーストリア林業レポートⅡ
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調査団の分担で調査先別に作成したレポートを元に加筆、修正したものです。
3.オーストリア林業・木材産業視察 日程
日時(現地時間) |
日 程 |
備 考 |
3/26
(月) |
8:30
10:45 ~ 14:55
17:10 ~ 18:35
19:30 |
関西空港 集合
関空 ~ ヘルシンキ
ヘルシンキ ~ ビエナ
ホテル着 |
AY78便
AY1475便
Das Tigra Hotel |
3/27
(火)
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9:00 ~
9:30 ~ 12:30
14:30 ~ 17:00 |
ホテル発
ジンメリングバイオマス発電所視察
・概要説明と工場内見学
グラーツ市へ移動、ホテル着 |
Wien Energie社
Palais Hotel |
3/28
(水) |
8:15 ~
9:00 ~ 10:00
10:00 ~ 13:00
14:15 ~ 16:30
19:00 |
ホテル発
マイヤー・メルンホフ社 視察
・概要説明(タワーヤーダ製造工場)
・現地視察(山林作業現場)
ブルック森林技術専門学校 視察
ホテル着 |
Mayr -Melngof -Strabe
Forest Technik社
Palais Hotel |
3/29
(木) |
8:00
10:30 ~ 12:00
14:15 ~ 15:15
18:00 ~ |
ホテル発
ピラミッドコーゲル視察
・世界一高い木造構造物で地域再生
昼食(Red Bullサーキット場)
・民間企業による地域再生
ホテル着 |
Keutschach市
Zeltweg町
Das Tigra Hotel |
3/30
(金) |
8:30
11:15 ~ 14:40
17:25 ~ 8:55 |
ホテル発
ビエナ ~ ヘルシンキ
ヘルシンキ ~ 関西空港(3/31) |
AY1472便
AY77便 |
4.オーストリア林業・木材産業視察 参加者
- 団 長 石 川 憲 幸 (丹波市/5期)
- 副団長 藤 田 孝 夫 (養父市/4期)
- 藤 原 昭 一 (小野市/6期)
- 原 テツアキ (淡路市/3期)
- 上 田 良 介 (美方郡/3期)
- 事務局 内 藤 兵 衛 (西脇市、多可町/3期)
- 大谷 かんすけ (尼崎市/3期)
- 安 福 英 則 (朝来市/2期)
- 北 浜 みどり (神戸市灘区/2期)
- 岡 つよし (加古郡/1期)
- 五島 壮一郎 (姫路市/1期)
- 奥 谷 謙 一 (神戸市北区/1期)
- 門 間 雄 司 (豊岡市/1期)
- 以上、12名
5.オーストリア林業・木材産業視察レポート
◎平成30年3月27日 9:30 ~ 12:30
【調査1:ジンメリングバイオマス発電所】
<面 談 者>
WIEN ENERGIE社(ウィーン・エネルギー有限会社)
エネルギーコンサルタント:マルティン・トアナー氏
<調査の目的>
1978年の国民投票によってオーストリアは、原子力利用を放棄した。以降、水力発電とバイオマス発電を基本とした持続可能なエネルギーシステムの構築を目標に据えた。エネルギー効率の向上と再生エネルギーの利用拡大を実施してきた現場の取組みを調査する。
<調査概要>
太陽光・水力・地熱・バイオマス・人体の動力等、再生可能エネルギーが市民の生活にどのように使われているかなど、WIEN ENERGIE社の紹介ビデオ視聴をしたのち、WIEN ENERGIE社の宣伝担当者からオーストリアの発電事情と工場内部説明を受けた。
なお、2018年の3月より工場現場での撮影は禁止をされており撮影は概要説明の場所のみ可であった。また現在、WIEN ENERGIE社では、自社の働きをウィーン市民により身近に感じてもらうため説明者を技術者から宣伝担当者に変更し、その情報の公開は無償で行っている。
【ジンメリングバイオマス発電所の歴史】
・1901年~ 天然ガス発電を開始。(当時:20MW出力)
・2006年~ バイオマス発電を新たに開始。
(20MW出力。開始当時はヨーロッパ最大のバイオマス発電所)
・2018年 天然ガス(1180MW)+バイオマス発電(20MW)で運転。※瞬間最大出力
社員134名(常勤)、34名(夜勤)
2年前よりウィーン市よりの委託事業(WIEN ENERGIE社)となり、事業を実施している。
【電力供給事情】
・WIEN ENERGIE社は電力自由化によりウィーン市の50社の販売会社へ発電した電
力を供給している。
・オーストリアの消費者の電気利用は、即時に解約ができる自由契約(20セント/kwh)
と1年契約(16セント/kwh)に大別される。
・オーストリアの電気周波数は50Hz。
・エコ電力法(2003年~)…13年固定買取価格制度が開始。
(250MW~=9.5セント、~250MW=9.7セント)
【発電システム】
- WIEN ENERGIE社では、7つのタービン(シーメンス製)を所有。
・蒸気タービン3基(24時間で100%出力)
・ガスタービン4基(4分以内に100%出力…ジェットエンジン同等)
バイオマスは、高温高圧蒸気を利用する蒸気タービンのみしか使用ができないが、天然ガスは、蒸気タービンと高温ガスを利用するガスタービンの両方を使用でき、天然ガス発電においては両方を活用することで発電の効率性を上げている。
蒸気タービンは熱効率がいい反面、電力を100%出力するには24時間かかりその欠点を出力時間が速いガスタービンで補っている。
バイオマス発電 … 8000時間/年 、天然ガス発電 … 3000~4000時間/年
である。天然ガス発電は地域暖房など必要な時に電力供給の調節として稼働している。
- ボイラー内の蒸気の液体の冷却に、ドナウ川の水を冷却用として利用
⇒冷却用水としてドナウ川の水を利用しているが、その量はドナウ川の水量の6分の1までとし、返却時の水温で30℃以上の水は返却できない決まりとなっている。WIEN ENERGIE社は、20℃まで水温を下げ返却を行っている。
【バイオマス発電】
・木材チップの年間使用料は60万㎥であり1時間あたりトラック1台分(70㎥)を使
用しており、近隣諸国を含め発電所100キロ圏内より調達している。
・チップの主な木材はトウヒ属(常緑針葉樹)のマツ科植物であり、オーストリア国内木
材についてはドナウ港に木材チップ工場があり、そこでチップ化されたものが運搬され、
ハンガリーやスロバキアなど近隣諸国は自国でチップ化されたものが運搬されている。
木材チップの輸送方法は工場内に鉄道網が敷かれていたが、市民からの反対により、現
在はトラック運送のみとなっている。運搬されたチップはまず金属部分、大きすぎるも
のを除去し、2日分備蓄(週末用)が可能なサイロに運ばれる。また、輸送用トラックは
チップを納入したのち、燃焼時に発生した灰を持ち帰っている。
※ジンメリングバイオマス発電所での、バイオマス発電の技術的特徴は、
『チップ+砂』による燃焼が行われていることである。
砂は、温度調節(熱伝導が高い)だけでなく、ボイラー内に付着したススを除去するなどの利点があり、使えなくなればそのまま灰と同じく産業廃棄物として処分される。
また、ボイラー内は、はじめ天然ガスで着火を行いボイラー内があたたまってきてから木材チップを投入している。
【コントロールルーム(管制室)】
視察時のメーター
ガスタービン…78MW、蒸気タービン(バイオ+ガス)…275MW、地域(温水用)…450MW
<質疑応答>
Q)熱利用はされるのか。
A)地域の暖房用(温水)として利用しており、その世帯数は約17000世帯にのぼる。
発電(55%)+熱水(150℃)で80%の利用率であり、地域へは60℃の温水で供給している。
Q)発電コストはバイオマスと天然ガス発電とでどちらが高いのか。
A)バイオマスについてはFit制度があるため天然ガス発電よりもコストがかかると考え
られる。(担当者類推)
Q)バイオマスエネルギーに対する市民の意見はどのようなものか。
A)元々消費者の80%は再生エネルギーの運用に賛成であるが、実利用(green energie利
用)は低いのが現状である。
消費者は熱利用の為にはバイオマス発電+天然ガス発電の両方が必要と理解している。
Q)日本では木質バイオマス発電の場合、発電所を増設しても燃料となる木材チップの原料
供給が不足するという懸念があるが、オーストリア国内においてはそのような心配はないのか。
A)そのような懸念はなく、チップ収集能力は十分にあると考えている。
<考 察>
今回の調査先での発電システム(天然ガス+バイオマス)はその立地がオーストリア最大の都市ウィーン(人口250万人)であることから、1200MWの発電規模である。また市中心部から空港までの間に立地していることから、今回の調査対象であったバイオマス発電の電力供給はわずかであった(20MW/1200MW)。
二酸化炭素排出抑制、また国内木材の消費に木質バイオマス発電が大いに寄与している一方、消費者への安定的な電力供給には、天然ガス発電など火力発電との効果的な組み合わせとしてこの比率になっている。背景には近隣諸国間で燃料の自由な流通が行われていることにある。例えば天然ガスはロシアからパイプラインで供給されており、緊急用備蓄タンクを整備し非常時に備えながらもここでの主要燃料となっている。一方で森林から搬出される木材の効率的活用の一環として急速に普及しつつある木質バイオマス、特にオーストリアの場合は、ヨーロッパ有数の段ボール会社でもあるマイヤー・メルホフ社のチップ消費量を賄うための木質チップ輸入ルートが安定していることも影響している。
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さて関電エネルギーソリューションなど県内バイオマス発電でも課題であるチップの含水量のバラツキがオーストリアではどのような管理になっているのかが気になったところだが、渡航前調査で明らかになったことは2014年にチップのヨーロッパ規格EN ISO17225-1が出来ており、1.丸太・エネルギー林・森林残材・切り株・工業用残材など原料の由来を示すこと。2.チップのサイズとその大小ズレ幅を示すこと。3.含水率・最大含有率を示すこと。4.燃焼において最大どのくらいの灰がでるのか示すこと。5.チップの比重を示すこと。6.1kgあたりの発熱量を示すこと。以上6項目が定められている。
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◎平成30年3月28日 9:00 ~ 10:00
【調査2:マイヤー・メルンホフ社 視察】
<面 談 者> ロシェック・ヨハネス森林官(マイヤー・メルンホフ社 私有林案内役)
<視察目的>
オーストリアは、森林面積の割合が多く、地形が比較的急峻であることから日本との類似性が指摘されている。マイヤー・メルンホフ社の社有林は標高430m~2200mに位置し、平均傾斜約30度という急峻な地形にもかかわらず、タワーヤーダーを中心とした生産性の高い作業システムを確立し原木丸太を年間18万㎥生産している。
兵庫県や我が国の林業における、山元での大きな課題である原木搬出の効率化がどのように行われているのか? マイヤー・メルンホフ社の社有林の取組みを調査する。
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<視察内容>
【マイヤー・メルンホフ社概要】
マイヤー・メルンホフ社はオーストリアで約3万へクタールの森林を所有するオーストリア最大の森林所有企業を有しており、マイヤー・メルンホフ関連会社のヨーロッパで第3位となる約300万㎥を製材するマイヤー・メルンホフ製材、ヨーロッパの段ボール市場の25%を占めるマイヤー・メルンホフ製紙に木材を供給している。
国などから補助金はほとんどないことから、基本的にはマイヤー・メルンホフ社のみで林業経営を行っており、作業効率が重要であること、また、海抜430m~2,200mに位置し、平均斜度約30度の社有林から安全で生産性の高い集材機械の開発が必要となっていた。そこで、1963年に開発されたのが、タワーヤーダである。同社はタワーヤーダだけに専念して研究・開発を続けており、現在では、マイヤー・メルンホフの社有林から生産される年間約17万㎥の原木丸太の約半分がタワーヤーダによって集材されるまでに至っ
ている。
なお、社有林の種類は、80%がトウヒ、15%がカラマツ、5%がブナ科である。また、国などから補助金はほとんどなく自社のみで林業経営を行っていることから作業効率がとても重要である。
【マイヤー・メルンホフ社視察】
・タワーヤーダは、伐り倒した木を森林内から道沿いまで集めるための集材機械です。
・トラックやトレーラをベースマシンとして、集材用のウィンチとワイヤロープを高く張り
上げるためのタワーを装備している。
・マイヤー・メルンホフ社で1963年に開発されたタワ
ーヤーダは、1982年コンピュータープロセッサーに
よる滑車、台車の自動制御となり人件費など大幅な
コストダウンにつながっている。自動制御において
は、降下する木材を定位置で停車させるなど作業に
おいて重要な機能が搭載されており、伐出作業の事 故軽減などにつながっている。
・また、マイヤー・メルンホフ社のタワーヤーダは、
安全性に優れており、ドイツの第三者製品安全試験・認証機関ティフ・ラインランド(TUV)の認証を受けている。
・マイヤー・メルンホフ社では伐出作業などにおける作業
効率など何が必要か十分に吟味し、タワーヤーダの開発
につなげている。
・タワーヤーダについては、購入者に納品する際、タワー
ヤーダを使いこなす人材育成が効率、利益の向上につな
がるという考えのもと、マイヤー・メルンホフ社が運転
技術やワイヤーの張り方など使用技術を訓練している。
◎平成30年3月28日 10:00 ~ 13:00
【調査3:最新機器による伐採搬出現場 】
マイヤー・メルンホフ社の社有林にて、同社下請会社のタワ
ーヤーダを使用した伐出作業を視察させていただいた。
同社下請会社では、シンクロ・ファルケというタワーヤーダ(約6000万円)を使用しており、年間25000~30000㎥の木材を生産している。
今回の作業では、準備(ワイヤーは張り等)に3~4時間かかったという。また、基本は2名体制で行うが作業の困難性から3名体制で行っている。なお、今回伐出されている木は樹齢120年である。
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<質疑応答>
Q)伐出作業中の事故はないのか。
A)事故はあるが、タワーヤーダ導入前も多かった。タワーヤーダが事故の原因とは言えないだろう。事故が起きないために、また、高い生産性を上げてもらうために、マイヤー・メルンホフ社では、タワーヤーダを導入してもらう時にしっかりとした研修を行う。
また、木が滑って集材機に衝突する事故などが多かったが、自動制御装置の導入前により事故は減った。
Q)日本では1日あたり最大10㎥搬出できるという認識である。1日の作業でどれくらいの木材を搬出できるのか。
A)1時間あたり18~20㎥あたり搬出できる。よって、
1日(8時間作業)で約160㎥である。
Q)タワーヤーダで伐出する木材はどうやって切るのか。
A)チェーンソーで伐採する。
Q)日本では、搬出コストについて1㎥あたり、6,000円~7,000円を目指している。1日あたりの搬出コストはいくらか。
A)1㎥あたり26ユーロ(約3,400円)である。
Q)原木の市場価格はいくらか。
A)用途によって異なる。製材としての利用は1㎥あたり約90ユーロ、製紙の場合は約40ユーロである。
Q)林道の整備もマイヤー・メルンホフ社で行うのか。
A)社有林の1400㎞の林道のうち1360㎞は自社で負担して整備している。40㎞は災害等の理由により行政から補助があった。
Q)タワーヤーダの日本への輸出はあるのか。
A)高知県香美森林組合にキャタピラ型のタワーヤーダを2台輸出している。
<考 察>
今回の視察において、メルンホフ社のタワーヤーダの使用現場を実際に視察させて頂いたことで、その優秀性を実感することができた。まず、安全であることを第一に開発されており、様々な工夫と制御において作業員の身を守ることに力が注がれていた。また、その搬出量も我が国の16倍にも上る数値であり、その生産力に驚かされた。
地形的に急峻で日本と似た地形で営まれているオーストリア林業であるが、若者の就きたい職業の第2位に森林官が入っていることが、オーストリア林業の発展を物語っている。これらの取り組みを兵庫県においての人材育成の参考にする。
オーストリア全産業雇用者数で林業・木材関連従事者が一番多い。
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◎平成30年3月28日 14:15 ~ 16:30
【調査4:ブルック森林技術専門学校 視察】
<面 談 者> アントン・アルドリアン(ブルック森林技術専門学校 校長)
<調査目的>
急峻な地形や森林面積の割合が高いなど、日本と似ている点が多いオーストリア林業であるが、林業人材の育成の点で日本と大きく異なり、制度的にも政策的にも充実したものとなっており、国全体の林業施策推進に面として重要な位置付けとなっている。
日本においても今後益々重要度が高まると考えられる担い手となる林業事業体や、人材の育成施策、並びに制度についての調査を行い、今後の施策展開に活かすことを目的とする。
<調査内容>
・人口860万人を要するオーストリアは、その国土面積83,879㎢の内、その約半分を森林
が占めている。森林は、65%が商用利用されており、残り30%は保護森林、その他が5%
利用されている状況である。森林は、「木材利用」「災害対策」「環境保全」「レクレーショ
ン」の点で主要な役割果たすとされている。
・木材利用に関しては、木材資源量11億3,500万㎥と推定
されている中、一年間に3000万㎥の成長が見込まれる木
材の内1700~2000万㎥が利用されている。
・森林所有は国有林が19%、民間・自治体林は81%である
中、200ha以上の区画所有されている面積は、成長量の
95%が活用されているのに対し、200haより低い所有林
は70%の活用に留まっている。
・雪崩危険個所が7000箇所、氾濫危険個所は12,000箇所
の中、災害防災対策の面での森林の適切な管理・維持を行
っていく必要がある状況である。
・オーストリアの森林教育の体系
1)ウィーン農業大学(森林経営監理官(国家試験))
2)森林技術専門学校(森林官(国家試験))
3)職業教育中等学校(森林専門作業員、森林マイスター)
4)森林専門学校(森林管理員)
5)専門学校での講習(森林警備員)
6)研修と職業学校(森林マイスター)
今回調査した箇所は「森林技術専門学校」の区分される
施設である。
・1900年10月に「オーストリアのアルプス地方の為の
林業技術アカデミー」として創設された調査施設は、
1974年に職業訓練学校「ブルック森林技術専門学校」
となり、現在81名の職員(内51人が教育職)を要す
るに至っている。
・5年間の高等職業訓練学校(高校修了資格試験および大学修了資格試験を受けることが可
能)としての機能並びに、3年間の訓練講習(3年または4年の農業・森林専門学校を卒
業した者が受講可能)を実施する機能を有する施設である。
・取得可能な資格は、「総合大学での受講資格・職業訓練・最終的に森林官補佐の職位」や
「2年間の職業実習を修了し、国家試験合格後に得る事が出来る森林法に準拠した『森林
官』の職位」、「3年間の職業実習修了後の『技師』の称号の付与」がある。
・オーストリアの義務教育修了後(14才)、15歳~19歳の5年間をかけて、700haの学校所
有林などでの700時間の現場実習を語学やコミュニケーションスキルなどの一般教養や
森林の生態系・土壌・気候・動植物相などを学ぶ生態学、森林技術、森林に関する経済や
法律、実地研修などを習得する仕組みとなっており、卒業検定合格者には『森林官補佐』
の認定証が交付され、その後2年間の実務研修を終えてから国家試験を合格して『森林官』
の資格を得ることが出来ることとなっている。
【ブルック森林技術専門学校の変遷と環境変化】
1900年10月 |
林業技術アカデミーとして創設 |
1950年~1960年代 |
林道整備が進む |
1960年代 |
チェーンソー利用拡大を背景に事故が多発。防護服不足や林業教育の不足が問題となる。 |
1974年 |
高校卒業資格を有する職業訓練学校となる |
1985年 |
寮を新築(外装木材、CLT工法) |
2010年 |
殆ど木材による建替え(校舎、体育館他) |
■
<質疑応答>
Q)入学試験はあるのか。どの程度の人数が入学し、卒業す
る人数は何人か。
A)応募してくる学生の70%程度が入学許可を受けている。
1学年100名程度入学(男女比率は9対1)し、80名程度
が卒業する。99%がオーストリア人である。全生徒410
名中318名が入寮している寮費を除いて、学費は無料で
ある。
Q)オーストリアでの職業人気はどうか
A)1位の消防士に次ぐ人気の職業が森林官となっている。
自然に触れる中で技術を活かせる職業として学生人気を
保っている。
Q)近親者や身近に林業関係者が居ない入学希望者は、どのくらいいるか。
A)入学希望者は、自身周りに林業関係者がいる場合が多い。
Q)卒業後の進路はどういう状況か。
A)2/3は森林関係に就職し、1/3は大学などに進む。大学などに進む者も卒業後に森林関係
の職業に就くことも多い。
Q)民間企業との連携はあるのか。
A)寮関係などのイベントにおいてスポンサーとして寄付を貰ったり、企業人材からの講演をして貰ったりしている。
さらに、民間企業での必要人材について教育的見地からの
フィードバックを受けたり、卒業生が森林官として所属す
る企業より様々な情報提供を受けたりなど多くの面で連
携をしている。
■
Q)長野県の森林大学校と連携協定を結んでいると聞くが、ど
のような交流をしているのか。
A)校長や教員はお互い行き来して、情報交換を行っている。
日本からの学生を受け入れている。オーストリアからの学
生は資金面の課題もあり日本へは行っていない。
Q)年間の予算、経費についてどのようになっているか。
A)年間運営費は900万ユーロで100%国の負担である。
内訳は、給与400万ユーロ、寮関係費300万ユーロなどである。所有林の立木販売も行っている。
Q)年間に何人くらい森林官となっているか。
A)40~50人が国家試験に合格し、森林官となっている。
<考 察>
オーストリアの森林に携わる人材育成のための教育制度は、大オーストリア帝国時代まで遡れるほど古い。その中でも100年以上の歴史を持っているブルック森林技術専門学校を視察させていただき、『森林官』という林業全般のプロを育てる現場を知ることができた。林業に携わる者が持つ様々な資格の中でも、国家資格として確固たる地位と収入を約束され、その仕事に就くことが多くの若者の夢となっている。
まさに、我が国が出遅れている事が人づくりであった。オーストリアで長年人材育成が行われてきた結果、林業の育成につながっている現場を目の当たりにし、今後の我が県における人材育成の糧としたい。
兵庫県森林大学校は各種専門学校の位置づけだが、アロマセラピーや森林が人体に及ぼす好影響など広い分野での可能性を試している。宍粟市をはじめ、中山間地での新たな観光や学習の機会として活用できる期待もある。一方森林作業を行う上での専門知識教育や実地体験学習では、これから必要とされる職業としての森林作業者のレベル向上には大きな役割を果たすと思われる。併せて卒業後の進路として大学での林学を学ぶことに繋がったり、森林環境維持のための植物や生物の研究などを含め今後拡大させなければならない。一気に理想形にはならないが、まずは市場ニーズのあるバイオマスや製紙チップ、合板原料としてでも森林資源搬出を促進し、併せて良材の利活用ムーブメントを市場に起こさねばならない。
■■
◎平成30年3月29日 10:30 ~ 12:00
【調査4:世界一高い木造建造物ピラミッドコーゲル 視察】
<説 明 者>
ホフラー・カリン
<調査の目的>
世界で一番高い木造建造物を視察し、今後の木造構造物について考える。
ケルンテン州クラーゲンフルト市 (ウィーンから南西へ320km)
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<調査の概要>
地域の木材のみを使用して環境的に持続可能な建築方法を採用している。主要構造は16本の大断面集成材で、それを10の楕円形リングを80の斜めの支柱で補強している。
展望室から高さ900mのピラミーデンコーゲルという山を一望することが可能である。
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<質疑応答>
Q)建物が出来た年とその建築費用は。
A)2012年に約10億円かけて100mの高さのものを築造した。
Q)この建物を作ろうとした経緯は。
A)当初は1960年代に造られた高さ54mのコンクリートの建
物があったが、修理に約9億円必要ということがわかり、
この際に観光も兼ねて約10億円で高さ100mの地元の木を
使った木造の建物を作った。
Q)1年間の来場者数は。また、当初の目標通り来場者はある
のか。
A)1年間で目標20万人に対し、現状は15万人となっている。
Q)入場費用はどのようになっているのか。
A)入場が14€で降りてくるときに滑り台を使う場合は+4€となっている。近年、先ほど話を
したように入場者が目標人数に届かないので11€から3€値上げした。
Q)地域が活性化したなどの波及効果は。
A)年間15万人が訪れるようになることで周りにホテルができるなど地元経済が活性化した。