兵庫県の生息地環境
氷ノ山周辺に2ペア生息ですが、ここは県下の最高峰であり近くには但馬牛の放牧地だったハチ高原や東ハチ、ハチ北高原、上野高原などのススキ草原、スキー場があり、集落近くには広くはないけれど畑地や里山が残る地域です。つまり但馬全体がイヌワシを育んでいるってことですよね。
定期的な山焼きは生物の多様性を支えている側面がある。また主伐した森林は太陽の光が届き、植生が豊かに保水力も上がる。これもイヌワシの餌場として良い環境らしい。(本年度から始まった県下主伐再造林計画は30ha) イヌワシの縄張り5000haには少し足りないが・・・・・今後継続される。
総じて餌不足であるが、森林の中でも餌を獲れるようなイヌワシの生態進化は無いのか? 伺ったところ地上を歩く飛びつくなどに必要な筋力変化・進化は認められず返って個体として小さくなっているとのこと。
絶滅の可能性
16年ぶりの繁殖確認は絶滅を免れる一歩だが喜んでばかりいられない。それは個体の大きさと成長にも関連する、巣立ちまでの期間の長さだ。餌不足が原因と思われるが、独り立ちできるかどうか心配になってくる。主要な餌である野ウサギは植林後の若葉や芽を食べる有害獣の扱いだが、イヌワシの縄張り5000ha内でどれくらいの被害原因となるのだろうか? 実証したデータはない。この際、実験することも必要かもしれない。
有害鳥獣対策と生物多様性
現在の環境対策はどちらかというと経済優先(人間本位)で行われている。鹿、月の輪熊、カワウ、アライグマ、サル、イノシシなど、個別有害捕獲目標を立て農林水産業被害軽減を目的として予算化・事業が組が組立てられている。そんな中にあってコウノトリの野生復帰計画は人口繁殖・給餌からスタートしたが、前者(鹿・熊等)対策と違い田んぼの食物連鎖の頂点にいるコウノトリが住める環境整備、即ち多種多様な生物を増やすことでした。当然人間との距離感も重要でコウノトリ育む農法、田んぼの生き物調査、観察会など人の営みと次世代教育にも及んだトータルな取り組みです。
さてイヌワシの生息環境と人間の営みとの両立で最適環境を考える時、今回は水田ではなく里山、森林の環境整備をトータルで考えることになります。
県民みどり税と森林環境譲与税
みどり税の使途は都市緑化と災害に強い森づくり、校庭の芝生化や共有スペースの緑化、集落に迫る危険木除去と森林動物との距離確保、渓流地の流れ木留めなどです。これらは直接的に木材搬出や製材業などを支援し経済効果を狙う事業ではないのですが、搬出された材は燃料や建材として利用されています。森林環境譲与税は国から市町に交付される税で、森林関連教育や木材利用促進、また経済的に搬出しにくい非効率・危険な森林地帯の整備に税を投入する趣旨です。森林管理や資源利用が今動きだしたのです。
もうお分かりですよね!
直ぐには経済効果はでないかもしれない、(実は出るようにも調整中)。しかし長期的に多自然地域が人間の都合だけで著しく偏ることが無いよう、ゆっくりしかし確実に科学的根拠を示しながら整備、あるいは維持管理しなければなりません。10年20年50年の方針を決めて次世代に伝えていかねばなりません。優れた自然環境の象徴、それは「風の精」とも呼ばれ県下最高峰に住む孤高のイヌワシです。