先進農業地視察調査を実施しました。行き先は千葉県です、利根川下流域は広大な農地が広がりしかも大消費地である首都圏が近いこともあり様々な農業が行われています。地質は関東ローム層と呼ばれる富士山噴火で飛来した火山灰に利根川が運んだ浸食泥質が混ざったもの。関西圏(兵庫県の大方)の粘性の高い土より軽い感じです。
最初の調査先は千葉県香取郡神崎町、岩澤信夫氏(究極のたんぼ著者)の進める不耕起栽培の取り組みについてです。
栽培のポイント
①基本的に耕さない
②稲穂を付けてから刈り取るまで田を乾かす
③つまり常時たん水(水を張りっぱなし)
④農薬は使わず、肥料も最小限にとどめる
土地の環境を大幅に変える事を避け、自然(ありのまま)の状態で生物の多様性とバランスをとるらしい。当然雑草ひきも手作業だが、抑え込む方法を会得されているようだ。
販売先は農協に供出されず、独自ルート。販売業と個人とがそれぞれ50%づつらしいが、驚くべきはその価格・・・ 一俵(30キロ)3万5千円
▲農事組合法人“和郷園”
100名の生産農家が加盟・運営している。平均年齢は45歳、我々を対応して戴いたのは佐藤理事、従来の農業青年のイメージとは少し違った。~雄弁なんです~
この農業法人は株式会社和郷(生鮮・加工販売、直販、海外事業部)の計画受注してきた作物を栽培し、㈱和郷に供給する仕組み。
生産者は和郷だけとの契約では無く、農協や市場へも出荷している。
▲ここは㈱和郷の生鮮加工センターです。
基本的に農業法人和郷のメンバーから買い取った農産物の一次加工までを手掛けています。 小売店頭に並ぶ商品ですが、デリカや、カット野菜などではなく、加熱または調理する必要がある商品までで、急速冷凍の状態で保管、出荷されます。
▲佐藤理事の説明
パワーポンントを使い、ジョークを混ぜながら・・・
農業(耕作)従事時間は天候異変でもない限りそれほど長くはない、有り余る(失礼)時間をどう活かすかが決め手である。(私の持論)佐藤さんは農業を科学している。
▲㈱和郷の事業内訳は、生鮮販売18億円、加工12億円、直販・海外事業20億円、正規社員60名、生産農家(農業法人和郷)100名
▲直販部門では“なごみ園”農家レストラン等を経営。
昼食バイキングと売店を併設。
▲和郷に納入している農家のハウス。
▲リサイクル事業部門
スーパーの残渣も回収している。此処では裁断と水切り
▲残渣の水切り層
▲近所の家畜糞尿をたい肥化する施設で残渣を処分、バークに残渣を加える。
▲残渣に含まれる水は、メタンガス化される。
さて不耕起栽培ですが、現状での広がりはそれほどではありません。千葉のような広大な農地では水利権もあり、一部の田だけが年中水を引くことは課題も多いのです。しかし但馬の環境創造型農法のように、80%減農薬、無農薬を目指せば、人力だけによる雑草とりや有害虫対策では追い付かなくなることから、冬季たん水をはじめ、微生物や昆虫の生態に係るいわゆる食物連鎖ピラミッドを無理なく、しかも若干(?)ですが、人間の農業に有利な方向に持って行かざるを得ません。欧米に比べて日本農業での農薬使用率は3倍とも言われている現在、しかも糖度の高い作物が高級・旨いとされる飽食の時代、何が正しいのかは誰も解らないのです。
こだわりにお米という点で評価されているのですが、こだわりとは即ち他との違いの一種であり、普通に多く普及流通すれば例え優れたモノであってもこだわりで無くなるのです。
農業法人和郷園の取り組みは、近代農業に不可欠の3要素、①栽培の科学技術と経験、②マーケット情報、③資金を今まで一元管理出来なかった農業への挑戦的取り組みです。
単純には生産農家は㈱和郷に対し販売金額の20%を納めます。その20%の使途とは、上述の3要素を満たすために使われているのです。これは兵庫県や全国で始まっている農産物直販所の維持管理形態と似ており、更に進化した組織とも言えます。佐藤理事との意見交換では、生産者(佐藤理事ほか)は、冷静に市場動向や生協・大手スーパーの市場対応方向性等を見極めながら、一方で海外農産物との価格競争を避けながら生鮮と加工品の商品開発を絶えず行っている姿勢が見てとれました。市場流通(シェア50%)を既製品とすれば、法人和郷は市場品より少し上位の品質と消費者動向を掌握した優良品の位置づけです。
~巨大投資が必要なカット野菜やデリカに今は手を出さないスタンス(経営センス)も見事です~